<楓盆栽の特徴>
かえで,楓,カエデ
(英名:maple,acer,trident maple)
カエデ科カエデ属のうち盆栽では、切れ込みが3裂で浅いものをカエデ、切れ込みが5裂以上で深いものをモミジといっています。
カエデの代表種としては人気の高いトウカエデ(唐かえで)と、その変種のミヤサマカエデ(宮様かえで)があげられます。
いずれも紅葉の美しさが最大の特徴ですが、まばゆい緑も捨てがたい魅力があります。さほど枝づくりの難しさもなく、持ち込むほどに樹格が上がるところが、盆栽の中でもひときわ高い人気樹種になっているゆえんでしょう。
毎年の芽摘みや葉刈りで細かく枝先をつくっていくと、新緑、紅葉後の寒樹の風情も楽しめます。
なお、トウカエデよりミヤサマカエデの方が幹の太りがよく、特に立ち上がりが立派になります。
葉の形と色の変化
カエデは繊細で優雅な葉を持ち、葉の形が美しく、手のひら状に裂けた特徴があります。春から夏にかけては鮮やかな緑色ですが、秋になると紅葉し、鮮やかな赤や黄色、オレンジ色に変わります。この季節ごとの色の移り変わりは、カエデ盆栽の大きな魅力です。
優れた枝ぶり
カエデの枝は柔軟であり、剪定や整枝がしやすく、美しい樹形を作るのに適しています。成長も比較的速いため、枝の配置や形状をコントロールしやすい点が盆栽愛好家にとって魅力です。
繊細な根張り
カエデの根は浅く広がりやすく、地表に見える根(根張り)を強調することで、古木感や風格を演出することができます。根の管理はカエデ盆栽の魅力を高める重要な要素です。
水分管理
カエデは湿気を好みますが、水が多すぎると根腐れを起こしやすいので、適切な水分管理が必要です。特に夏場は乾燥に弱いので、細心の注意が必要ですが、過湿も避けなければなりません。
日光と風通し
カエデ盆栽は日光を好みますが、真夏の強い直射日光は葉焼けを引き起こす可能性があるため、午前中の柔らかい光や適度な日陰を提供するのが理想的です。また、風通しの良い場所に置くことで病気や害虫のリスクを減らせます。
剪定と管理
成長が早いカエデ盆栽は、定期的な剪定や枝の整形が必要です。春や夏に新芽を摘むことで、形を整えながら葉の密度をコントロールできます。また、冬には落葉するため、この時期にしっかりと枝の配置を確認し、適切な剪定を行うことができます。
紅葉時期
カエデ盆栽の最大の見どころは、秋の紅葉時期です。気温が下がると鮮やかな赤やオレンジに変化し、美しい景色を盆栽の中で楽しむことができます。紅葉を美しくするためには、日光、温度、栄養管理が重要です。
<楓盆栽 管理>
置き場所
カエデは日光を好む植物ですが、強い直射日光や夏の暑さには弱いので、以下の点に注意して置き場所を決めましょう。
冬: カエデは耐寒性があるため、屋外で冬を越すことができますが、鉢は凍結を避けるために風の当たらない場所に置きます。
春〜秋: 午前中に日光が当たり、午後は半日陰になる場所が理想的です。
夏: 葉焼けを防ぐために、明るい日陰や半日陰に移動することをおすすめします。風通しの良い場所も大切です。
水遣り
カエデは湿度を好むため、水管理が重要です。以下のポイントを守りながら水やりを行います。
- 春〜秋: 土の表面が乾いたら、たっぷりと水を与えます。特に夏場は乾燥しやすいので、朝と夕方の2回水やりを行うこともあります。
- 冬: 落葉後は水やりの頻度を少し減らし、土の表面が乾いたら軽く水を与える程度にします。土が完全に乾燥するのは避けてください。
根の生育がおう盛なので水切れに注意し、表土が乾いたところでたっぷり水やり。
いったん水切れした葉はきれいに紅葉しません。
また、根が張ってくると水がしみこみにくいので、いったん水が引いてから再び与えるようにして吸い込ませます。
肥料
カエデ盆栽は成長期に肥料を与えることで健やかに育ちますが、適量を守ることが大切です。
- 春〜夏: 有機肥料や緩効性化成肥料を使います。肥料は新芽が伸びる前の春と、夏の成長が落ち着く頃に施します。
- 秋: 秋も少量の肥料を与えて、翌年の成長に備えます。
- 冬: 冬は成長が止まるので、肥料は不要です。
芽摘み、葉刈りの後は新芽が伸びてから、必要に応じて月一回水やりの代わりの液肥で窒素分を補います。
植え替え
- 春(新芽が出る前): 植え替えの適期です。古い土を半分程度落とし、新しい土に植え替えます。
- 用土: 水はけの良い用土が好ましく、赤玉土(中粒・小粒)を主体にし、腐葉土や軽石を混ぜた配合土が適しています。
毎年三月に太根、長根を短く切り、良く根を刈り込んでから、基本用土で植え替えます。
細根をいかにたくさんつくるかが、細かい枝ぶりにつながります。
そのためにも用土もしっかりふるい分け、粒のそろったものを使います。
病害虫
ゴマダラカミキリはあっという間に葉や枝を食い荒らします。見つけしだい薬剤駆除。
食害された葉は葉刈りで再生させます。
カイガラムシは冬の間に冬期用の殺虫剤、殺菌剤を散布しておきます。
冬越し
カエデは落葉樹で、冬には落葉して休眠状態に入ります。冬場は水やりの頻度を減らしつつ、寒さから鉢を守るため、風の強い場所や凍結する場所は避けます。鉢が凍ると根がダメージを受けるため、土の保温や断熱を行うのも効果的です。
寒さには強く、関東以西は屋外で冬越しできます。
土が凍るような場合は室内に取り込むか、寒冷紗で覆います。
<楓盆栽 手入れのコツ>
芽摘み
四月に入ったら3節伸びたところで、1節を残して指かピンセットを使って摘み取ります。
楓の芽摘みは、盆栽の芽摘み作業としては早めに行う方です。
何もしないと外側の大きな葉と内側の小さな葉が、まばらにつくようになってしまいます。
芽摘みは生長を均一化するのに欠かせない作業ですから、樹勢の強いところは1節残し、弱いところは2節残して調整します。
カエデは秋にも芽摘みを行います。
葉刈り
六月、きちんと芽摘みした樹は、大きさのそろった葉が密生してみごとな新緑を見せているはずです。
しかし、こうなると風通しが悪くなったり、日当たりが悪くなって内部の葉が弱りだします。
そこで、せっかくそろえた葉ですが、いったんすべて刈り取ってしまいます(全葉刈り)。
葉柄をほんの少し残す気持ちで、剪定バサミでどんどん刈っていきます。
人工的な落葉状態にするわけです。小さな葉が多少残るぐらいの丸坊主にすると、内側にも光線が入って生長が促されます。
やがて2番芽がいっせいに開くと、若々しい葉になって大きさもそろいます。
これが紅葉させる葉です。
なお、完成木に近づいてきたら均一に刈らず、生長の早い必要な部分だけ行い、全体のバランスをとるように心がけます。
あとは再び春と同じ要領で芽摘みをします。
さらにその後も伸びてくる芽は摘みましょう。芽摘みと葉刈りを繰り返すことで小枝が増え、胴吹き芽も出てくるようになります。
芽摘みと葉刈りは1年で2度の新芽、つまり2年分の枝が伸ばせるのが最大のメリットです。1年で2年分の枝数ができることにもなります。
作業後は木がダメージを受けているので、明るい日陰に移し、水やりも少し控えめにします。
剪定
カエデ盆栽は成長が早いため、定期的な剪定が必要です。
- 春の剪定: 新芽が伸び始めたら、芽摘み(めつみ)を行い、形を整えます。芽摘みは、枝が密集しすぎないように新芽を摘む作業です。
- 夏の剪定: 新しい枝が伸びすぎる場合には、軽く剪定を行いましょう。ただし、真夏はストレスを与えないために大きな剪定は避け、形を整える程度に留めます。
- 冬の剪定: 葉が落ちた後に、枝の配置を確認しながら大きな剪定を行う時期です。この時期は樹の骨格を作るのに最適です。不要な枝や枯れた枝を切り、樹形を整えます。
葉刈りの前には、徒長枝や不要枝をあらかじめ切って起きます。
落葉後の休眠期も徒長枝を1~2節残して切り詰める事ができます。
葉がないので腋枝や車枝が見つけやすくなるこの時期は、こまめに不要枝を剪定するチャンスです。
針金かけ
カエデ盆栽は枝が柔らかいので、針金掛けを使って枝の形を整えることができます。ただし、枝が太くなると針金が食い込んでしまう可能性があるため、以下の点に注意しましょう。
- 春の成長期が終わった頃(初夏)に掛け始めるのが良いです。
- 数か月おきに針金を確認し、枝に食い込む前に外すことが重要です。
葉刈りを終えると枝振りがよくわかるので、針金をかけて樹姿を整えます。
方向の悪い枝は、それぞれの枝先に向けて矯正するようにします。
繁殖
春挿し、梅雨挿しができ、新枝だけてなく古枝も小指くらいの太さまでなら使えます。
挿し穂はある程度剪定して骨格を作っておくと、その後うまく形ができます。
実生苗は軸切りの挿し芽をすると、太くしまった苗になり、根もしっかり張ります。
実生をするには、花つきと実止まりがよく、節間が詰まり、葉の小さな木を見つけておき、その種子を手に入れることです。
10~11月に羽根を取って取りまきしたら五月頃発芽するので、約1年育ててから春の芽吹き前の三月に直根を切って植え付けます。
何年か持ち込んでは植え付け角度を変えたり、強く剪定したりして骨格を作ります。
よい胴吹き芽が出てきたら、生かす方向で作り変えていきます。
自生種のないミヤサマカエデは、実生でしか増やせません。
実生苗や挿し木苗などはまとめて寄せ植えにできます。
生長のよいものを主木にし、ほかはやや低くなるように剪定します。
手っ取り早く仕上げたいときは取り木も可能です。
<楓盆栽 月毎の手入れ>
【一月】
枝先を整える程度の剪定が可能です。作業後はムロで保護しましょう。
【二月】
2月下旬~3月になり、芽が動く直前は植え替え最適期です。
【三月】
植え替え適期は三月上旬頃までです。四月以降は芽摘みをして節間の間延びを防ぎます。
【四月】
新芽が伸び出したら芽摘みと並行して葉刈りを行う。葉刈り後の不定芽の処理も忘れずに。
【五月】
枝骨をつくるために走らせていた新枝は堅くなる前に芽押さえしましょう。風通しの良い環境下での管理が最適です。
【六月】
葉刈りと葉透かしが可能です。灌水時には葉やけに留意し、葉水等を行いましょう。
【七月】
七月上旬頃まで葉刈りが可能です。二番芽の整理も行いましょう。
【八月】
九月に入れば肥培を開始します。殺菌・消毒を定期的に行いましょう。
【九月】
夏までの葉刈りの効果で、全体の葉の大きさがそろう頃です。養成樹は肥培管理の徹底を。
【十月】
枝作り段階であれば十月中旬頃まで肥培し、落葉前に全葉刈りと小枝の剪定を行いましょう。
【十一月】
落葉前後の時期は枝先の軽い剪定程度なら可能です。小枝のほぐれた古木は寒さが本格化する前に保護を。
【十二月】
幹洗いと冬期消毒の後に保護室に入れます。特に鑑賞段階の樹や小品は早めの保護を。