<けやき盆栽の特徴>
けやき,欅
(英名:zelkova,keyaki)
盆栽の世界では「ほうき立ち」で有名なけやき。
寒樹の姿がほうきを逆さに立てたような形で、枝が細かいほど美しいほうき立ちになります。
繊細な木にするため、山採りではなく実生で作ったものがほとんどです。
細かな枝から吹き出した新緑のまぶしさや、秋に黄色や橙色へと変化する紅葉も見逃せません。
葉色を美しくするためには、日当たりのよい場所に置き、2~3週おきに鉢を廻してまんべんなく全体に日が当たるようにします。
黄葉ではなく紅葉する赤芽性の木は立ち性となりやすいので、ほうき立ちにつくりやすいと言われています。
けやきは、盆栽として非常に人気が高く、四季折々の変化を楽しめる木です。以下に、けやき盆栽の特徴を詳しく説明します。
美しい樹形と枝の構造
けやき盆栽の最大の魅力は、その美しい枝の分岐と優雅な樹形です。けやきは自然に枝が細かく分かれていくため、剪定を適切に行えば、枝が繊細に広がり、均整の取れた樹形が作りやすいです。これにより、自然の大木をそのまま縮小したような風格ある姿を楽しむことができます。
- 自然な広がり: けやきは枝が外側に向かって自然に広がるため、いわゆる「箒立ち(ほうきだち)」と呼ばれる優雅な形を取りやすいです。枝が放射状に広がり、樹木全体が空に向かって広がっていく姿は、盆栽として非常に美しく映えます。
葉の特徴
けやきの葉は、楕円形で小さく繊細です。特に新芽の時期には若々しい明るい緑色を呈し、成長すると深い緑色になります。
- 四季折々の葉の色の変化: けやきは四季の移ろいを感じさせる盆栽です。春には新緑が芽吹き、夏には濃い緑色の葉が生い茂り、秋には黄色や橙色に紅葉し、冬には葉が全て落ちて裸木の姿を見せます。季節ごとに異なる表情を楽しめる点がけやき盆栽の大きな魅力です。
根張りの美しさ
けやきは根張りが美しいことで有名です。根がしっかりと地面に張り、土の表面に出てくることで、盆栽全体の安定感と風格を増します。この根張りの美しさは、けやき盆栽の魅力の一つであり、特に古木のような堂々とした風格を持つけやき盆栽は非常に人気があります。
成長が早く、管理がしやすい
けやきは成長が早いため、管理しやすい樹種とされています。剪定や枝の整形が効果的で、比較的短期間で樹形を整えることが可能です。また、強い生命力を持っているため、多少のミスや環境の変化にも耐えることができます。この成長力のおかげで、初心者でも育てやすいとされています。
四季の変化を楽しめる
けやき盆栽は、四季折々の美しさを感じられる点で特別です。
- 春: 新芽が出て鮮やかな緑の葉が茂ります。けやきは芽吹きが非常に美しく、春の景色に彩りを与えます。
- 夏: 葉が濃い緑色に変わり、木全体が元気に茂ります。夏の暑さの中でも、けやきの青々とした姿は涼しげな印象を与えます。
- 秋: 秋には黄や橙に紅葉し、色鮮やかな葉が盆栽全体を彩ります。けやきの紅葉は美しいことで知られ、秋の風景に非常に映えます。
- 冬: 冬には全ての葉が落ち、枝だけの状態になりますが、その繊細な枝ぶりが盆栽の一部として楽しめます。特に冬の枝姿は、けやきの構造美を際立たせ、自然のシンプルな美しさを感じさせます。
耐久性と強靭さ
けやきは日本の自然界に自生しており、強靭な耐性を持っています。寒さや暑さに強く、比較的多くの環境に適応できます。風通しの良い屋外で育てることが理想的ですが、適切なケアを行えば室内でも育てられます。強い生命力を持っているため、初心者でも比較的育てやすい盆栽です。
剪定と管理がしやすい
けやきは成長が早いため、剪定(せんてい)や枝の整形がしやすいです。特に春から初夏にかけては成長が早く、剪定や枝の誘導を行うことで、美しい樹形を作り上げることができます。枝が細かく分かれやすいため、細やかな剪定が必要ですが、手入れをすることで自然で美しい形を保つことができます。
長寿と風格
けやきは非常に長寿な木で、正しく育てれば数十年、時には百年以上生きることができます。特に年を重ねたけやき盆栽は、堂々とした風格と落ち着いた美しさを持ち、愛好家に非常に人気があります。古いけやき盆栽は、自然の中で育ったような力強さと繊細な美しさが共存しています。
<けやき盆栽 管理>
置き場所
けやきは日光を好むため、風通しの良い日当たりの良い場所に置くことが大切です。特に春から秋は外で育てるのが理想的ですが、直射日光が強すぎると葉焼けを起こす可能性があるため、夏場は半日陰に移動するか、日除けをして直射日光を和らげます。
- 春と秋: この時期は、日光を十分に浴びせて健康な成長を促します。日当たりが良い場所が最適です。
- 夏: けやきは高温多湿に弱いので、直射日光を避け、涼しい半日陰や風通しの良い場所に移動させます。
- 冬: けやきは落葉樹で耐寒性がありますが、寒冷地では霜や風から守るため、屋内に取り込むか、風除けを施します。
水遣り
けやきは水を好むため、適切な水やりが重要です。特に乾燥には弱いため、土が乾かないように注意しますが、過湿も避ける必要があります。
- 春と秋: 成長期には、水をよく吸うため、土の表面が乾いたらすぐに水を与えます。鉢の底から水が流れ出るまでたっぷりと与えるのがポイントです。
- 夏: 夏場は乾燥しやすいため、朝と夕方の2回に分けて水を与えることが理想的です。ただし、過湿になると根腐れの原因となるので、排水性の良い土と鉢を使用しましょう。
- 冬: 落葉して休眠期に入るため、冬は水やりの頻度を減らします。ただし、土が完全に乾燥しないよう、適度に水を与えます。
新芽が出ると、とたんに水の乾きが早くなります。
水切れさせないよう、表土が乾いたタイミングで鉢底から抜けるまでたっぷり水を与えます。水切れすると葉が茶色になります。
逆に葉刈りや落葉などで葉が少ないときは、水やりの回数を控えめにします。
肥料
けやき盆栽の成長を促進するために、春と秋に肥料を与えます。特に成長期に適度な栄養を供給することで、健康で力強い成長をサポートします。
- 春(3月〜5月): 新芽が動き出したら、月に1〜2回、固形の有機肥料や液体肥料を使います。成長期なので、栄養を与えることで葉が鮮やかに茂ります。
- 秋(9月〜11月): 秋も成長期の一部なので、肥料を与えて葉の色づきを良くし、冬に備えさせます。
- 夏と冬: 夏の暑い時期と冬の休眠期には肥料を控えます。特に冬場は葉が落ちて成長が止まるので、肥料は不要です。
多肥は樹形が乱れます。
葉刈りで年に何度も葉を出させる場合は、玉肥を4~10月に月一回施します。
植え替え
毎年3月の彼岸頃、基本用土で植え替えをします。新芽が出る前に行うのが理想的です。
用土が粗いと細かい枝が出ません。細かい目でふるい分けた用土を使います。
直根はもちろん元から切り、他の根も短く切り詰めて植えるので、安定するまではビニール紐などで固定しておきましょう。
病害虫
落葉期に冬期用の殺虫・殺菌剤を散布して害虫の発生を抑えます。
冬の管理
けやきは冬に落葉し、休眠期に入ります。この時期は水やりを控えめにし、寒さから保護することが必要です。特に寒冷地では鉢を風から守るか、屋内に移動させて冬越しを行います。
<けやき盆栽 手入れのコツ>
選定/芽摘み
けやきは成長が早いため、定期的な剪定や芽摘みが必要です。これにより、形を整えつつ健康な成長を促します。
- 剪定: けやきは春から初夏にかけて枝が伸びるため、不要な枝や交差している枝、樹形からはみ出した枝を剪定します。ほうき立ちでは葉刈り時に枝の様子が分かります。そこで斜上枝のみ残し、不要枝を切り落とす剪定を行います。
枝の付け根の芽かきをせず、そのまま伸びてしまった枝は枝を立て替えるために、短く切り詰めます。
ほうき状の樹冠から飛び出した徒長枝はいつでも切れます。 - 芽摘み: 成長期に新しい芽が伸びたら、強く伸びすぎた芽を摘み取ります。芽を摘むことで、枝分かれが増え、全体のバランスが良くなります。
枝を作っていく(枝を増やす)過程では、4~5月に枝の先端の葉を摘みます。芽の出る方向を見て枝先に向けて引っ張ると、簡単に摘むことができます。
枝の伸びが抑えられ、枝数も増やせます。
葉刈り
けやきの葉が大きくなると、全体のバランスが崩れることがあります。その場合、葉刈りを行い、葉を小さく保つことで樹形を整えます。
- 時期: 初夏(6月頃)に葉刈りを行います。これにより、葉が小さくなり、新しい葉が生え揃い、より精密な枝ぶりが形成されます。
- 方法: 大きくなりすぎた葉を切り取り、全体のバランスを整えます。ただし、すべての葉を一度に刈り取ると樹が弱るので、一部だけ葉刈りを行います。
4年程度持ち込むと樹姿も整ってきます。そうなると、枝数が増えたために内部に日が入らなくなり、外側ばかり生長してバランスが悪くなります。
6月に新芽がそろったところで、葉をいったん全部取り、枝先を選定して半球を作るようにします。
葉は元の部分を少し残してはさみできるか、葉元を抑えながら枝先にむけて葉を引っ張ります。生長期なのですぐに二番芽が出てきて枝葉を増やせます。それ以降、半球から飛び出る芽は摘んでいきます。
こうして芽摘みと葉刈りを繰り返して太枝を作らないようにします。
芽かき
枝の付け根の芽は、見つけ次第ピンセットでかき取ります。
整枝
生長にしたがってフトコロ部分に空間ができてしまった場合は、ほうきを束ねるようにして枝を束ねて先端を切り、枝元にあてゴムをして針金を巻き、空間をなくすよう矯正します。
しかし、このふところの空きをなくすには、最初の枝が出たところで開きすぎないよう、ゆるくひもで8の字に結んでおくことです。
細かい枝の方向が悪い程度なら、手で枝を思いの方向へ曲げる「枝だめ」で修正します。
針金掛けをする場合、枝が柔らかい春から夏にかけて行います。
枝や幹に針金を巻き、理想的な樹形に整えます。
注意点: 針金が枝に食い込まないように定期的に確認し、必要に応じて針金を外します。枝が固定されたら、針金を外すか、緩めます。
繁殖
実生は1~2年で骨格ができる一方、ちょっと手入れを怠るとほうきの形が崩れ、なんとも格好が付かなくなります。落ちている枝から種子を取り、とがったほうを下にして基本用土に取り蒔きします。
できるだけふっくらした種子を選び、しっかり覆土します。
乾かさないように管理すると、翌年四月にはよく発芽します。
霜に当てると種子が浮き上がってしまうので注意してください。
<けやき盆栽 月毎の手入れ>
【一月】
保護室で管理を。二月中旬頃から小枝の剪定を行い、芽出しに備えます。
【二月】
箒立ち樹形で枝を束ねていたものは二月中旬頃に結束を取ります。植え替えは三月中旬頃から。
【三月】
植え替え適期は三月中旬頃。新芽が動き出したら芽摘みをおこない輪郭線を整えます。
【四月】
四月上旬頃、新芽が輪郭から伸び出してきたら葉を1~2枚残す要領で芽つみを行う。
【五月】
輪郭背インから飛び出す芽を摘み取り、同時に葉刈りで小枝の充実を図ります。不定芽の搔き取りも忘れずに。
【六月】
養成樹は葉刈りと徒長枝の切りつめを並行して行い、枝づくりに努めましょう。
【七月】
葉刈りと徒長枝の切りつめで姿を整えましょう。小枝の修正程度なら針金掛けも可能です。
【八月】
輪郭を乱す芽は随時摘みとります。同時に徒長枝の切り詰めも可能です。二番芽の芽かきも忘れずに。
【九月】
残暑が残る間は、軒下や寒冷紗下で西日を避けて管理します。完成段階の樹は枝太りを防ぐため肥料は控えめに。
【十月】
落葉後、コケ順の悪い枝や不要枝を剪定します。箒立ち樹形の樹は麻紐で枝を束ねるように巻き上げておきましょう。
【十一月】
落葉後、枝の状態を確認しながら剪定・整姿を行います。養成段階の箒立ち樹形の樹は、麻縄などで枝を巻き上げて姿を矯正しましょう。
【十二月】
幹洗いと冬期消毒の後に保護室に入れます。特に鑑賞段階の樹や小品は早めの保護を。