<モミジ盆栽の特徴>
モミジ,もみじ,山モミジ,ヤマモミジ,紅葉
(英名:Japanese Maple,acer palmatum)
盆栽では葉の切れ込みが5裂以上で深いものをモミジ、ほかのものをカエデとしています。
紅葉と書いてモミジと読ませるほど、秋の様子が美しい樹ですが、春~初夏の新緑の美しさ、冬の縦縞が走った白い幹肌が魅力の寒樹と、年中楽しめる人気の樹種です。
モミジは大きくイロハモミジ、オオモミジ、亜種のヤマモミジの3種類に分類できますが、盆栽にされるのは主に日本海側に自生するヤマモミジです。
人気が高い品種は八つ房性の清姫モミジ、琴姫モミジ、織姫モミジ、新芽が赤い出猩々、清玄、紅千鳥など。また、イロハモミジも葉が小さいので、いくつかの品種が盆栽に仕立てられています。
盆栽には葉が小さく、節間の詰まった細い小枝がたくさん出ているものを選んで育てます。
秋になると2枚の翼がプロペラ代わりになって、ひらひらと実が落ちてきますから、簡単に実生ができます。その際、親の樹を見て葉性の良いもの、枝ぶりの良いものを選ぶのが、よい盆栽に育てるコツになります。
美しい葉の形と季節ごとの色彩変化
もみじ盆栽の最大の特徴は、季節によって変化する葉の色です。
- 春: 春には新芽が出て、鮮やかな緑色の小さな葉が開きます。この時期は、若葉の瑞々しい姿が楽しめます。
- 夏: 夏には葉が濃い緑色になり、木全体が生い茂ります。もみじは涼しげな印象を与える葉が多く、暑い季節にさわやかさを感じさせます。
- 秋: 秋になると、もみじの葉は赤、橙、黄色へと美しい色に変わります。この紅葉が、もみじ盆栽の最大の魅力の一つです。秋の鮮やかな色彩は、季節の移り変わりを感じさせ、観賞価値が非常に高いです。
- 冬: 冬には葉が落ち、裸の枝のみが残ります。この時期のもみじ盆栽は、枝の繊細な美しさを楽しむことができます。
繊細で優雅な葉の形
もみじの葉は、手のひらのような形をした掌状(しょうじょう)葉が特徴で、5〜7つの細長い裂片(葉の切れ込み)が入っています。この葉の形は非常に優雅で、盆栽の姿を引き立てます。また、品種によって葉の大きさや裂片の形が異なるため、さまざまな美しさを楽しむことができます。
樹形の美しさ
もみじ盆栽は、自然な樹形を作りやすく、枝が細かく広がる特徴があります。特に、枝の伸び方や曲がり方を整えることで、バランスの取れた美しい樹形を作り出すことが可能です。
- 直幹(ちょっかん): 幹が真っ直ぐに伸びるスタイルで、もみじの優雅さと力強さを表現します。
- 模様木(もようぎ): 幹が自然に曲がりながら伸びるスタイルで、もみじの柔らかさと動きを楽しむことができます。
成長が早く管理しやすい
もみじは成長が比較的早く、剪定や枝の整形がしやすい樹種です。そのため、初心者でも管理しやすく、成長を見守りながら樹形を整える楽しさがあります。新芽の成長が早いので、定期的な剪定が必要ですが、基本的には手入れがしやすい樹種です。
根張りの美しさ
もみじは、**根張り(ねばり)**が良いことで知られています。根が地面にしっかりと広がり、盆栽としての安定感や風格を生み出します。この「根張り」の美しさは、盆栽愛好家にとって重要な要素であり、鉢に収まったもみじの姿をさらに引き立てます。
季節感の強調
もみじ盆栽は、四季折々の変化がはっきりと現れるため、季節感を楽しむことができます。特に秋の紅葉と冬の裸木の姿は、自然の美しさをそのまま取り込んだような感覚を味わうことができ、季節の移ろいを強く感じさせます。
もみじの品種
もみじには多くの品種があり、盆栽として栽培されるものもさまざまです。代表的な品種には以下のものがあります。
- 青枝垂れ(あおしだれ): 枝が垂れる品種で、青々とした美しい葉を持ちます。枝垂れた姿が優美で、独特のシルエットが特徴です。
- 出猩々(でしょうじょう): 春に鮮やかな赤い新芽が出て、秋に美しい紅葉が楽しめる品種です。紅葉が特に美しいことで知られています。
- 山もみじ: 日本の自然に自生するもみじの一種で、秋の紅葉が特に美しく、力強い成長を見せます。自然な樹形を楽しみたい方におすすめです。
長寿と風格
もみじは非常に長寿な木で、適切に育てることで何十年、さらには百年以上の寿命を持つことができます。長い年月をかけて風格が増し、樹齢を重ねることでさらに深い趣を持つようになります。
もみじ盆栽の精神的な価値
日本では、もみじは古くから「秋の象徴」として親しまれてきました。もみじ盆栽はその季節感と美しさにより、自然との調和や移ろいゆく時の流れを感じさせてくれます。特に秋の紅葉は、命の儚さと美しさを同時に感じさせる存在であり、深い精神的な意味合いを持っています。
まとめ
もみじ盆栽は、その四季折々の美しい葉の色彩変化や繊細な葉の形、優雅な樹形が特徴です。特に、春の新緑、夏の深緑、秋の紅葉、冬の裸木と、1年を通じて異なる顔を見せてくれるため、季節ごとの楽しみが豊富です。成長が早く、比較的管理がしやすい点から、初心者でも育てやすい一方で、長寿であるため、年月をかけて深い風格を持つようになるのも魅力です。もみじ盆栽は、自然の美しさと季節の移ろいを感じさせる、非常に魅力的な盆栽です。
<モミジ盆栽 管理>
置き場所
もみじ盆栽は、日当たりの良い場所を好みますが、直射日光が強すぎると葉焼けを起こすことがあります。春から秋にかけては半日陰、もしくは朝の光が当たる場所が最適です。
- 夏: 夏の暑い時期は、特に葉焼けに注意する必要があります。強い日差しを避け、木陰や遮光ネットを使って直射日光を和らげてください。また、風通しが良い場所で管理すると、病気や害虫の発生を防げます。
- 冬: もみじは耐寒性が比較的高いですが、寒冷地では寒さや霜から保護するため、屋外で育てる場合は風が直接当たらない場所に置くか、寒冷紗などで覆うと安心です。
水やり
鉢土が乾いたらたっぷり与えます。
もみじ盆栽は、土が乾燥しすぎると葉が枯れてしまうため、適度な水やりが大切です。
葉が広がっているので、雨が降っても鉢土に充分しみこまないことがあります。梅雨時も油断せず、必ず鉢土のようすを確認して水やりをします。
夏に水切れを起こすと葉先が縮れ、美しい紅葉になりません。
- 春と秋: 成長期には、水が必要な時期なので、土の表面が乾いたらたっぷりと水を与えます。水やりの際は、鉢の底から水が流れ出るまでしっかりと与えましょう。
- 夏: 夏場は特に乾燥しやすいので、朝と夕方の2回に分けて水やりをするのが効果的です。ただし、水やりのタイミングを見計らって、過湿にならないように注意します。
- 冬: 休眠期には水やりの頻度を少し減らしますが、完全に乾かないように適度に水を与えます。
肥料
新緑と紅葉のために窒素分を主体にした玉肥を施します。
もみじ盆栽は、春と秋に肥料を与えることで元気に成長します。
夏と冬: 夏の猛暑や冬の休眠期には肥料を控えます。特に冬場は、成長が止まるので肥料は不要です。
春(3月〜6月): 新芽が動き出す春に、月に1〜2回、緩効性の有機肥料や液体肥料を与えます。特に成長期なので、適度な栄養を与えることで健康な葉が育ちます。
秋(9月〜11月): 秋の紅葉後、葉が落ちるまで肥料を与え、冬の休眠期に備えさせます。
植え替え
1~2年に1度を目安に、芽が伸び出す三月中旬頃、基本用土で植え替えます。植え替えによって、根の健康を保ち、土壌の排水性を改善します。
- 時期: 植え替えは、休眠期の初春(3月〜4月)が最適です。新芽が動き出す前に行います。
- 方法: 鉢から木を取り出し、古い土を軽く落として、長く伸びた根や絡み合った根を剪定します。その後、排水性の良い新しい土に植え替えます。もみじは湿気を好みますが、排水性の良い土壌も必要です。赤玉土と腐葉土を混ぜたものなどが一般的に使われます。
細かい枝を出させるには、細かい根をつくることが大切なので、土はよくふるって粒をそろえることもポイントです。
浅鉢に植えて上根を広げると、立ち上がりが太ってきて安定感のある姿になります。
植え替え時に底の部分を切り取って根鉢を薄くします。
夏越し/冬越し
秋に美しい紅葉を楽しむためには、適切な管理が必要です。
- 日照: 紅葉を美しくするには、夏から秋にかけての適度な日光が必要です。ただし、真夏の強い直射日光は避け、半日陰に置くのが理想的です。
- 水やりと風通し: 風通しが悪いと紅葉が悪くなるので、枝が混みすぎないように剪定を行い、風がよく通る環境を作りましょう。
秋の紅葉のため、夏は葉焼けさせないように寒冷紗やヨシズで日除けをつくります。
風で葉が傷んだり、乾燥で葉が縮んだりするのもよくないので、置き場所に気をつけます。
冬は枝を保護するためにムロに入れるか、暖地でも軒下か風当たりの強くない場所で、よく日に当てて越冬させます。
病害虫
もみじ盆栽は、特にカイガラムシやアブラムシ、ハダニなどの害虫が付きやすいです。定期的に葉や枝を確認し、害虫が発生した場合は、速やかに駆除します。
- 予防策: 風通しを良くし、湿気がたまりすぎないように管理します。また、病害虫の発生を防ぐために、時折農薬を使用することも検討します。
- 病気: もみじは根腐れやうどんこ病などにもかかることがあるため、適切な水やりと風通しの確保が大切です。
新芽が出てくるとアブラムシも出てきますから、見つけ次第薬剤散布します。また、風通しが悪くなると、うどんこ病が発生しやすくなるので、夏は特に置き場に気をつけ、予防として薬剤を散布しておきます。
<モミジ盆栽 手入れのコツ>
芽摘み
細枝を出させるため、また、節間を間延びさせないため、伸ばしたくない枝の芽がふくらんできたところで、中心の芽を摘み取ります。
ピンセットを使って、芽を左右に開くようにするとよいでしょう。
葉刈り
もみじ盆栽の葉が大きくなりすぎると、全体のバランスが崩れることがあります。これを防ぐために、葉刈りを行います。
- 時期: 初夏(6月頃)に行うことが一般的です。葉刈りを行うことで、葉が小さくなり、新しい葉が出てくることで全体の姿が整います。
- 方法: 大きくなりすぎた葉や込み合った葉を摘み取ります。ただし、すべての葉を一度に刈り取ると木が弱ることがあるので、一部だけ行うのが良いです。
六月頃新緑が出揃ったところで、大きさの不ぞろいな葉をいったんすべて刈り取ります(全葉刈り)。
その後に出てくる二番芽は葉の大きさがそろうので、紅葉するといっそう美しくなります。
葉刈り後、2~3週間もすると、すっかり新芽が出揃いますが、芽の数がどっと増えているので、四月同様、芽摘み作業が重要になります。
葉刈り後は枝振りがよく分かるので、不要枝を剪定するよいチャンスです。なお、古木になってきたら全葉刈りにせず、勢いの強すぎる上部のみを部分葉刈りします。
剪定
もみじは成長が早いため、剪定や芽摘みを行い、樹形を整える必要があります。
- 剪定: 剪定は、春に新芽が出た後や、秋の紅葉が終わった後に行います。不要な枝や混み合った枝、樹形を乱す枝を剪定し、風通しを良くします。新しい枝が伸びすぎた場合は、その年に2〜3回ほど剪定して樹形を整えます。
- 芽摘み: 4月〜6月の間に新しい芽が出てきたら、芽摘みを行います。長く伸びた新芽を摘むことで、全体のバランスが整い、葉が密に茂るようになります。
落葉直前に枝を切ると、枝から樹液が出ません。
樹液が流れるようなら、根切りをして植え替えます。
枝づくりは1~2節残して徒長枝を切り詰め、節間の短い枝を選んで二股に残すのが基本です。
特に第一節間が間延びしやすいので、良くえらんで剪定しましょう。
持ち込むうちに徒長枝は減って、細枝が増えてくるようになります。
剪定は落葉後の11~2月に行います。また、高木性のため、上部の樹勢が強くバランスを崩しやすいので、芯の立替えも大切な作業です。
こぶのない枝にするため、節のすぐ上では切らず、その先の節の下で切って枝が枯れこんでから折り取るようにします。
針金かけ
もみじ盆栽は、針金掛けによって幹や枝を整えることができます。ただし、もみじの枝は柔らかく折れやすいため、慎重に行う必要があります。
- 時期: 針金掛けは、葉が落ちた冬の休眠期(12月〜2月)に行うのが適しています。木が休んでいる間に針金で形を固定し、春に新しい枝がその形を保ちながら成長します。
- 注意点: 針金が枝に食い込まないよう、定期的に確認し、必要であれば針金を外すか緩めます。枝が細い場合は、特に注意深く行いましょう。
針金は落葉期にかけ、生長が盛んになる5~6月ごろ外します。
針金はアルミ線を使うか、銅線なら薄い紙を巻いて枝を傷つけないようにします。
芯枝と違ってかたいので折らないように注意し、できるだけ長い時間をかけて効果を上げます。
実生苗に針金をかけて曲付けをすると、たやすく思い通りの模様木ができます。
直線に伸びてしまった枝先をやわらかく見せるなら、少し上向きにさせます。切りたくない不要枝も、針金で方向を修正することができます。
繁殖
茶色くなって落ちてきた実を拾い、翼の中にある種子を鉢にとりまきします。または、乾かさないように保存しておいて3月にまいてもよいでしょう。
本葉が開いたら1.5~2cmくらいで軸切りをし、バーミキュライトに挿して乾かさないように管理します。これは節間の詰まった苗作りのための作業です。
自生している場所がやわらかい土なら、四月中旬頃に発芽しているのが見られるかも知れません。これを乾かさないように濡れた布でくるんで持ち帰って育てる方法もあります。
実生苗は20~30本まとめて2号鉢に植え、そのまま鉢上げして育てれば、寄せ植えになります。鑑賞鉢に植えつけたところで、外側の苗は針金をかけて少し広がるように整えます。
六月は取り木の適期。発根しやすい樹種なので、環状剥根をして水ゴケを巻いておけば、2~3ヶ月もすると発根して切り離せます。
挿し木は春挿し、梅雨挿しのどちらも可能です。節間の詰まった前年枝をえらんで挿し穂を作り、1節を土中に埋めます。
梅雨挿しの際は葉を2枚にし、大きな葉は切っておきます。赤玉土などに挿し、乾かさないように半日陰で管理して活着させます。
鉢上げは翌春、直根を切って植えつけます。
<モミジ盆栽 月毎の手入れ>
【一月】
保護室で管理を。二月中旬頃から軽めの剪定が可能です。
【二月】
植え替えは三月中旬頃行うのが安心ですが、保護を前提にするなら二月下旬頃から可能です。
【三月】
新芽が動き始める直前が植え替え適期です。芽摘みをして節間の間延びを防ぎましょう。
【四月】
完成段階は新芽がほころんできた段階で先端を摘み取る。枝作り段階は新芽を走らせてから剪定。
【五月】
芽摘み後に出る不要な二番芽は早めにかき取ります。梅雨期の前に、葉刈り・葉切りでフトコロの環境を整えます。
【六月】
六月中旬まで葉刈り・葉透かしが可能です。灌水時には葉やけに留意して葉水等を行いましょう。
【七月】
養成木なら七月上旬頃まで葉刈りが可能です。完成樹の場合は葉すかし・葉切りで日照・通風条件を改善させましょう。葉やけにも注意ください。
【八月】
紅葉鑑賞予定の樹は引き続き遮光下で管理。樹作りを優先するなら多少の葉やけは容認し、陽光下で管理します。
【九月】
水切れへの注意など日常の管理に専念します。この秋に鑑賞予定の樹は、残暑が残る間は西日を避けて管理します。
【十月】
綺麗な紅葉を望むなら朝夕の寒さにしっかり当てます。湿度が低くなるにつれ乾燥しやすくなるので、水切れに注意。枝の剪定は十一月中旬までに。
【十一月】
落葉後に剪定すると切断面から水を吹く場合があるため、落葉前に全葉刈りし、その後、剪定で枝先を整えます。
【十二月】
幹洗い・冬期消毒を済ませたら保護室に入れましょう。