<黒松盆栽の特徴>
黒松,クロマツ
(英名:Japanese Black Pine)
自然界では海岸沿いで生育する松です。
幹肌は荒々しく長い葉が強く出て迫力の在る樹種で、男松とも呼ばれています。
愛知県の三河黒松や、茨城県の鹿島黒松などが有名で、幹肌の荒れ方(亀甲性、岩石性、荒皮性など)に特徴があります。また、黒松の八つ房(やつふさ)品種として、寿、寸梢、千寿丸なども見られます。
充分に肥料を与え、できる限り日当たりの良い場所に置いて育てます。長年持ち込んで充分幹を太らせたら、無駄な枝を落として幹模様を味わえるようにつくります。
樹皮の特徴
黒松の樹皮は、若いときは滑らかで灰色がかっていますが、成木になるにつれて厚く、深い縦に割れた黒褐色の樹皮になります。この荒々しい幹は、古木の風格を感じさせ、盆栽の魅力のひとつです。特に三河黒松などは幹肌の力強さで有名です。
葉(針葉)の特徴
黒松の針葉は硬くて太く、深い緑色をしています。通常、2本1組で束になって生え、他の松に比べて強い存在感を持っています。針葉の長さは10センチから12センチほどですが、盆栽として管理すると針葉が短くなり、コンパクトな樹形が楽しめます。
成長の速さ
黒松は松の中でも成長が比較的早い品種です。これにより、樹形を整えるための剪定や針金掛けが定期的に必要になります。成長が早いことで、盆栽としての形を早く仕立てることができる反面、管理が必要になる頻度も高くなります。
ろう(新芽)の成長
黒松は年に2回、新しい芽が成長します。春に出てくる新芽(ろう)は特に大きく成長し、これを剪定することで枝数を増やし、樹形を整えることができます。この「ろうの管理」は黒松盆栽特有の技術であり、太く力強い枝と細かく繊細な枝のバランスを取るために重要です。
強靭さと耐久性
黒松は非常に丈夫な樹種で、環境の変化や剪定などにも強く、盆栽としての寿命が長いことが特徴です。また、強風や乾燥、海風などにも耐性があるため、比較的過酷な環境下でも育つことができます。これにより、初心者から上級者まで楽しむことができる品種です。
盆栽としての樹形
黒松盆栽は、伝統的な盆栽スタイルを作るのに適しています。直幹(ちょっかん)、模様木(もようぎ)、双幹(そうかん)など、様々なスタイルに仕立てることが可能です。特に、まっすぐな幹や力強い曲がりを持つスタイルが好まれ、樹形に力強さと美しさを表現します。
シンボリズムと美学
黒松は、日本文化において長寿や不屈の精神の象徴とされています。風雪に耐えながらも力強く成長する姿が、人々に希望や強さを与える存在とされています。そのため、黒松盆栽は庭園や家の入口などに飾られ、吉兆を招く植物として大切にされています。観賞用としてだけでなく、精神的な意味でも特別な存在です。
<黒松盆栽 管理>
環境
黒松は日光を好む植物です。できるだけ多くの太陽光が当たる場所に置くことが重要です。風通しの良い屋外で育てるのが理想的です。
室内に置くときは、窓際など光が多く入る場所を選びます。
水やり
やや乾き気味を好みます。
鉢土が乾いたのを確認してからたっぷり水遣りをします。
春と秋: 成長期なので、土の表面が乾いたらたっぷりと水を与えますが、過湿は根腐れの原因となるので、排水が良い鉢を使用し、土が乾いてから水をやるようにします。
夏: 暑い時期には、特に乾燥しやすいので、朝と夕方に確認し、必要に応じて水やりをします。ただし、常に湿った状態にしないよう注意します。
冬: 黒松は寒さに強いですが、冬は成長が鈍るため、水やりの頻度を減らします。土が完全に乾燥しないように注意しつつも、控えめに与えます。
肥料
七月に二番芽を出させるには、梅雨時と真夏を除く春から秋の生長期に玉肥を施し、養分を充分に行き渡らせて幹を太らせます。多肥には強い方ですが、根が肥料負けしないよう、様子を見ながら施す事が大切です。
春と秋: 成長期に、月に1〜2回、緩効性の有機肥料を与えます。液体肥料も使えますが、薄めて使用しましょう。
夏と冬: 夏の暑い時期と冬の休眠期には肥料を控えます。
植え替え
1~2年に1度、培養中のものは四月上旬ごろに基本用土よりも砂の割合を多くして植え替えます。鉢底に白っぽくカビのようなものがつくことがありますが、これは松の根生菌であり、健全に生長している証拠です。
古木になったら、植え替え間隔を空けて2~3年おきにします。
病害虫
黒松は比較的病害虫に強いですが、時折、アブラムシやカイガラムシが発生することがあります。
特に、マツの大敵といえばアブラムシです。
直接の害だけでなく、排泄物が原因ですす病を引き起こしたり、アリを呼び寄せたりします。定期的な薬剤散布で、怠り無く防除しておきます。害虫が見つかった場合は、早めに駆除しましょう。
<黒松盆栽 手入れのコツ>
作業はすべて芽の長さをそろえるため、芽の勢いが強いものを弱いものにあわせる方法で行います。
芽摘み
四月に入ったら芽が伸び始める直前に、勢いの強い新芽を半分に折り取ります。弱い芽はそのまま残しましょう。
芽切り
七月には弱い芽から順に新芽を元から切り落として前年葉のみにします(短葉法)。
強い芽は時期を遅らせて(1~2週間ほどあける)作業すると、秋ごろには二番芽の長さがそろいます。このように2度に分けて芽切りを行うことを「二度芽切り」といいます。
芽かき
八月、3芽以上ある部分を2芽にします。
残すのは左右1芽ずつで、中央部の立ち芽をかき取っていきます。
葉すかし
十二月になったら古葉を取り、葉の多すぎる部分は新芽も間引き、全体的に透かします。逆に弱いところは古葉も残しておきます。古い葉を取り除くことで風通しを良くし、病気を防ぎます。この作業も樹形を保つのに役立ちます。
葉すかしは葉抜きともいい葉をそろえる方法ですが、葉数が少ないうちは葉を切る葉切りでそろえます。
剪定
翌年三月に追い込み剪定をします。
間延びした芽は付け根から、芽切りをしなかったところは葉を3~4枚つけて切り詰めます。
針金かけ
休眠期にあたる11~3月に行いますが、太い幹や大きく曲げたいときは、生長期に入りかける二月頃から始めます。曲げ付けのための針金は、成木なら1年ぐらい、若木でも半年はかけておきます。
このくらい長いと、幹が太って針金が食い込んでしまう可能性もあります。定期的に確認し、数ヶ月で針金を外すか、緩めて調整します。
すでに食い込んでしまったところは、針金切りで切って癒合剤を塗ります。強い海風に吹かれているかのように、片側に強く流すと雰囲気が出ます。
繁殖
落ちないうちに青いまま実を取り、室内で開かせて採種します(実生)。
一晩中水につけて発芽しやすくしてからとりまきにして発芽させ、最初の数年で針金をかけて幹模様を作ります。取り木や接ぎ木も可能です。
<黒松盆栽 月毎の手入れ>
【一月】
作業を行った樹は寒風から保護します。二月中旬から枝接ぎが可能です。
【二月】
二月中旬から芽接ぎの適期です。三月に入ると強めの剪定・整姿作業も可能になります。
【三月】
植え替えは三月中旬~四月中旬頃。勢いの強い新芽を折り取って樹勢を調節を(ミドリつみ)。
【四月】
五月頃、新芽が長く伸びだしてきたら(ローソク芽)、先端を止めて抑制をかけておく。
【五月】
六月中旬を過ぎると芽切りの適期を迎えます。極端に強い芽は、前もってミドリ芽を摘んでおきましょう。
【六月】
六月中旬からは芽切りの適期。芽切り直後は施肥・消毒は控えます。
【七月】
小~中品の樹は七月上旬頃から芽切りの適期。二番芽が吹けば、まだ芽が小さいうちに芽かきを行いましょう。
【八月】
八月上旬からは芽かきの適期。芽切りした樹には必ず行いましょう。お盆過ぎからは肥料を増やし肥培に努めます。
【九月】
二番芽の整理を行いましょう。しっかりと肥培し樹勢をつけることも忘れずに。
【十月】
日照・通風に配慮した棚場で管理を。十月下旬頃から古葉すかし・剪定・針金整姿が可能です。
【十一月】
基本的には屋外で管理可能です。ただし葉透かし・剪定・針金かけを行った樹は棚下か軒下で保護しましょう。
【十二月】
基本的には棚上で管理しますが、剪定・針金かけを行った樹は棚下か軒下で保護します。